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第五回 広島県の妖怪を巡る旅 稲生物怪録 後編

第五回 広島県の妖怪を巡る旅 稲生物怪録 後編

2024/01/14

 前回までは、平太郎が一人、妖怪に立ち向かうところまでをご紹介しました。さて、平太郎は妖怪を退け、平和な日々を取り戻すことができるのでしょうか注1

女の首飛び回りて、平太郎をなでる怪
7月26日「女の首飛び回りて、平太郎をなでる怪」
『稲生物怪録絵巻(堀田家本)』(部分)個人蔵(三次市教育委員会寄託・提供)
万事平気の平太郎

 妖怪たちは平太郎をどうにかして怖がらせようと、連日手を変え品を変えて挑んできました。女の生首から生えた手になでられて、寝ているところを起こされた日もあれば、大きな老婆の顔が天井から出てきて顔をなめまわされた日もありました。話していた知人の頭が急に割れ、中からわらわらと赤子が這い出してきたことも。部屋中がネバネバになってしまい、柱に寄りかかって寝た日すらありました。
 友人たちが加勢にくれば、妖怪たちが刀の鞘を隠したり(律儀にすべて返してくれたようです)、香炉の灰をかけたりして、追い返してしまいます。退治しようと罠をかければ罠を壊し、霊験あらたかなお札を貼ればその上に落書きをするという手ごわさに、徐々に助太刀を名乗り出るつわものもいなくなっていきました。

 しかし、当の平太郎は全く動じません。「相手にしないのが一番」とばかりに、毎日さっさと蚊帳を吊り、布団を敷いて寝てしまうのでした。
 だんだんに慣れてくると、「今日はどうくるかな」と考える余裕もあったようです。妖怪側も攻勢一方ではなく、集まって退治の算段をしている人間たちのために、妖怪が漬物樽を運んできたり(「お茶うけにどうぞ」というつもりでしょうか?)、美女に化けて平太郎にぼたもちを差し入れたりという、律儀な気遣いもあったようです。

漬物桶を運ぶ化物
7月17日「漬物桶を運ぶ化物」
『稲生物怪録絵巻(堀田家本)』(部分)個人蔵(三次市教育委員会寄託・提供)
妖怪騒動の結末

 屋敷を騒がせてきた妖怪騒動は、30日目に終わりを迎えます。その日の夜、「山本五郎左衛門(さんもとごろうざえもん)」と名乗る品の良い武士が平太郎の元を訪れ、自分は妖怪を束ねる魔王だと告げました。そして、「魔王の頭になるため、もう一人の魔王、『真野悪五郎(しんのあくごろう)』注2と、100人の少年の正気を失わせた数を競っていたのだが、こんなに肝の太い少年は初めてだ。大変おそれいった。もし今後、真野悪五郎が悪さをしにきたら、この槌で北の柱を叩くがよい。そうすれば、すぐ加勢に参ろう」と、平太郎に槌を授けて立ち去りました。その後、平太郎の身に怪異が起こることはなかったといいます。

飛び去る魔王一行
7月30日「飛び去る魔王一行」
『稲生物怪録絵巻(堀田家本)』(部分)個人蔵 (三次市教育委員会寄託・提供)
《稲生物怪録》ゆかりの地巡り

 その一連のできごとが描かれたのが、『稲生物怪録絵巻(堀田家本)』です。この絵巻を含む《稲生物怪録》に関する資料は、三次市内の「湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)」で展示されています。物語に登場する、現在も残る地名や寺社などが紹介されているので、三次市内を散策すれば、比熊山や太歳神社など、物語ゆかりのスポット巡りを楽しめます。
 また、平太郎が授けられたとされる槌は現在、広島市東区の國前寺に、寺宝「如意宝ばけもの槌(にょいほうばけものつち)」として所蔵されており、1年に1度、1月7日に行われる「稲生祭」で公開されています。

湯本豪一記念日本妖怪博物館
湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)外観
(三次市観光公式サイト様)

 いかがでしたか?

 新年の始まりは、当時の妖怪騒ぎに思いをはせながらゆったりと瀬戸内を散策し、由緒正しき厳島神社で一年の幸せを祈念してはいかがでしょうか。広島へお出かけの際は、妖怪スポット巡りをどうぞお忘れなく。

 本記事の掲載にあたり、画像提供・監修をいただきました三次市教育委員会様ならびに湯本豪一記念日本妖怪博物館様に、この場を借りて御礼申し上げます。

[脚注]
注1:本コラムでは「稲生物怪録絵巻(堀田家本)」の内容を参考に、あらすじを紹介しています。
注2:《稲生物怪録》における作品内では、「神野悪五郎」と記されることが多くみられますが、本コラムでは上記出典に基づき「真野悪五郎」と表記しています。

[Reference]
「稲生物怪録」京極夏彦訳、東雅夫編 角川ソフィア文庫
「妖怪の肖像―稲生武太夫冒険絵巻」倉本四郎 平凡社
三次もののけミュージアム 2020年2月14日
三次市観光公式サイト 2020年2月14日

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