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Vol.9-2 ビバ・エスパーニャ!―後編―

Vol.9-2 ビバ・エスパーニャ!―後編―

2020/10/23

 さて、今回の記事では、前回に続きスペイン人がこよなく愛するフィエスタをご紹介します。今やスペインを代表する伝統文化である、「あの行事」に関連するお祭りです。

サン・フェルミン(San Fermín)

闘牛
闘牛のワンシーン

 これまでのコラムでご紹介してきたバレンシアの「ラス・ファリャス(Las fallas:火祭り)」、セビージャの「ラ・フェリア・デ・アブリル(La feria de abril)」とともに、スペインの三大祭りに数えられるのが、スペイン北部のパンプローナ(Pamplona)という街で開催される「サン・フェルミン(San Fermín)」です。日本で「牛追い祭り」などと呼ばれるサン・フェルミンは、おそらく日本人にとって一番聞き覚えのあるお祭りかもしれません。このお祭りでは、パンプローナ市内の路地を、ゴールである闘牛場めがけて牛に追われながら走りぬきます。参加者の服装は白いTシャツに赤のバンダナというのがお決まりのようで、牛を興奮させる作用のある赤色のものを身に着け、牛を闘牛場まで走りながら誘導します。

 ただ、このお祭りは非常に危険なものでもあります。細い路地を密集して駆け抜けるため、人と人ですら衝突し怪我をすることはもちろん、後ろから猛った牛たちが角を立てて追いかけてくるのです。しかも走っているのは、牛の扱いに慣れている闘牛士ではなく、一般の街中の人々。本来の闘牛で使われる牛よりは一回り程小さく、角は刺さらないようにあらかじめ削られていますが、毎年一定数の死傷者が出てしまうそうです。闘牛場に着いた後は、素人闘牛と呼ばれる、一般の参加者と牛との追いかけっこが始まり、すんでのところで牛を華麗によけると、拍手喝采が起こります。その後、闘牛士による闘牛がスタートし、最終的に牛は殺されてしまいます。「命」がテーマのこのお祭りは、一見残忍で危険なものに見えますが、実はパンプローナの神聖な儀式として愛されています。

サン・フェルミン(San Fermín)
サン・フェルミン(San Fermín)の様子

 スペイン語では「エンシエロ(Encierro)」と呼ばれる牛追いの起源は、14世紀まで遡ります。闘牛用の牛を田舎からパンプローナまで移動させたことが始まりとされ、当時は決まったルートはなかったそうですが、19世紀以降に正式なルートやルールが決められました。本コラムのVol.4-1で、スペインの各地にはサント(Santo:聖人)がいて、一年の中にそのサントを祝福する日があるというお話をしました。このサン・フェルミンというのはパンプローナのサントであり、牛追い祭りはそのフェルミンを讃える儀式です。パンプローナ生まれのフェルミンは、フランスで司祭となった後、パンプローナの最初の司教になりました。しかし、当時のローマ教皇からの迫害に遭い、斬首刑に処されました。参加者が身に着ける赤いバンダナは、牛の興奮剤であると共に、フェルミンの血を象徴しているそうです。したがって、お祭りの開始前には、市内のサン・フェルミン像の前で聖歌の斉唱が行われます。期間は7月6日~14日の約一週間です(正式なサン・フェルミンの日は7月7日)。

 闘牛は、必ず最後に牛が死ぬことで幕を閉じます。したがって、現在のスペインでは闘牛を廃止する声が多数挙がり、実際に禁止している地域もあります。私たちは普段家畜の命を頂いて生活していますが、殺す場面を見ることはほとんどありません。闘牛はある意味では、死闘を通して、普段口にしているものとの命のやり取りを見ることが出来るのかもしれません。実際に闘牛で使われる牛は日本の競馬と類似して、食用ではないことがほとんどですが、中には闘牛を専門に提供するレストランもあるそうです。食と命は切り離せず、常に何かを奪って生きているのだということを勉強できるスペインの牛追い祭り。18歳以上であることや、牛を触ったり過度に挑発したりしないなど、安全のためのルールを順守すれば誰でも参加できます。会場は楽しいお祭りムードですが、ぜひ参加する際は命への敬意を持って、そして何より危険のないように気を付けてください。

サン・フェルミン像
パレードの際に担がれるサン・フェルミン像(7月7日)

 いかがでしたでしょうか。どのお祭りも日本にはない、スペインならではの文化や価値観が色濃く反映されたお祭りですよね。ちなみに、最初のトマティーナの類似版で、小麦粉をひたすら掛け合うお祭りや、ワインを浴びせ合うお祭りなどもあり、どれもアリカンテから近い地区で開催されているそう。アリカンテを含む地中海沿いの人々は、ラス・オゲラスの爆竹と言い、今回のトマト投げと言い、とにかく派手好きだなぁと思います。今回ご紹介した3つのお祭りには、残念ながら未だどれも参加したことがありませんが、いつか行ってみたいと思っています。サン・フェルミンは走らずとも、建物の上からの見学(有料)やテレビでの生放送などもあるので、安全に楽しみたい方はそれもありかと思います。皆さんもぜひ自分なりの楽しみ方で、スペインを感じてみてください。

 次回が最後の投稿になります。スペインに滞在した9カ月間で撮りためた各地の絶景やベストショットを、街のおすすめ情報とともにご紹介します。私の愛する美しいスペインの情景を、ぜひ最後までお楽しみください。

ライター:NANA

東京都八丈島出身。趣味は読書とお散歩で、旅行雑誌を読んで行った気分になるのが好き。スペインの好きなところは、一瞬一瞬を楽しむことに全力を注ぐスペイン人の生き方と、美味しい食べ物。スペインのアリカンテ大学(バレンシア州)への留学体験記を執筆中の、フラメンコを踊れるライター。

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