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Vol.8-2 スペインと宗教―後編―

Vol.8-2 スペインと宗教―後編―

2020/10/09

サンティアゴ・デ・コンポステーラの街並み
サンティアゴ・デ・コンポステーラの街並み

 後半では、スペインと宗教のかかわりを語るのに欠かせない、「聖地巡礼」についてご説明します。

スペインでの巡礼が重視される理由

 イスラム教が、一生に一度の聖地メッカへの巡礼を定めているように、10世紀までのキリスト教(主にカトリック)もまた、三つの聖なる道の巡礼を、善行のひとつとして推奨していました。そしてその道を極める者に対して祝福と免罪が与えられるとされていました。
 第一の道は、ローマ(イタリア)の聖ペドロの墓への道です。巡礼者たちは「ワンダラー」と称され、十字架が巡礼のシンボルとなっています。第二の道は、イェルサレム(イスラエル)のキリストの墓への道で、この道を行く者は「パルミスト」と呼ばれます。シンボルはヤシの枝です。そして第三の道※1が、スペインを目的地とする、聖ヤコブ(スペイン語ではサンティアゴ)の墓への道です。
 使徒の一人である聖ヤコブは、ある夜に羊飼いの少年が野原で大空に輝く星を見たとされる、イベリア半島に葬られたといわれています。また、聖母マリアがイエスの死後にその地へ訪れ、福音を伝え、人々をキリスト教に改宗させたという伝説もあるそうです。その後、その地はコンポステーラ(星の草原)と名付けられ、現在はサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)と呼ばれています。この道を歩く者「ピルグリム」は、ホタテ貝の貝殻がそのシンボルとなっています。

巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステーラ

 サンティアゴ・デ・コンポステーラは、現在ではスペインで最も有名なキリスト教ゆかりの地となっています。この第三の道の巡礼は、フランスのサン・ジャン・ピエ・ド・ポーからスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラにある大聖堂までの、約700キロの道のりを指します。最後に大聖堂の中にある聖ヤコブの墓の前で祈り、天井からつり下がる巨大な香炉の香を浴びることで儀式は終了です。

サンデイアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂
サンデイアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂

 巡礼の道の途中には特徴的な矢印のマークがあり、それが道筋を示しています。また、巡礼者が身に着けるホタテ貝の貝殻※2は、巡礼中であることの証明になるので、道中にある飲食店や宿泊所が無料(あるいは低価格)で旅のサポートを提供してくれることがあるそうです。

巡礼路を示すホタテ貝と矢のマーク
巡礼路を示すホタテ貝と矢のマーク

 国をまたいだ700キロの道のりと聞くと、途方もないような気がします。しかし、全ての巡礼者が同じ地点からスタートするわけではありません。途中にいくつかポイントがあり、より短く挑戦しやすいコースもあります。手軽なものだと一週間ほどで歩ききれるものもあるそうです。
 本来はカトリック教徒のための巡礼でしたが、近年では観光客にも開かれているようです。興味がある方は調べてみてはいかがでしょうか。

巡礼路

宗教を「知る」大切さと、私が感じたこと

 ヨーロッパで過ごしていると、人々の心に宿るキリスト教の「神」の存在を強く感じました。日本では、キリスト教寺院はもちろんのこと、お寺や神社がいたるところに見られます。しかし、無宗教の方の割合も大きいのではないかと思います。私自身も宗教には明るくなく、特に決まった信仰もありません。
 しかし、たとえ自分の信仰がなかったとしても、それは宗教について一切知識がないこととイコールで語られるべきではないと思います。実際スペインの友人たち、特に若い人たちの中には無宗教の人も多くいました。それでも宗教行事には必ず参加し、宗教の知識自体は持ち合わせている人が大半でした。宗教というテーマはデリケートで難しいことではありますが、改めて、身の回りのことを「知る」ことの大切さを宗教を通して感じることができました。

 また、現地の方には、日本の神道の概念を特に珍しがられました。八百万の神々と称されるように、ありとあらゆるものに神が宿っているという日本の考え方は、一神教の人にとってはとても興味深いそうです。
 日本でも、宗教とかかわりを持つ行事が生活の中にたくさんあります。私も、初詣や願掛けをする際には神社に行き、彼岸にはお寺へお墓参りに行きます。盆踊りや、彼岸参りなどは仏教由来の行事ですし、神社のお祭りは紛れもなく神道の行事です。また、クリスマスやイースターなどのキリスト教行事も毎年楽しく参加しています。どの宗教を信仰している、というわけではなく、どれも私の生活のなかで当たり前になっています。
 このように、複数の宗教に基づく習慣を織り交ぜながら生活している私たち日本人の文化は、ユニークで面白いものだと気づくことができました。
 「知る」ということはどのフィールドにおいても大事なことです。ぜひこの機会がスペインの宗教、そして身の回りの宗教に目を向けるきっかけになりましたら幸いです。

 次回は、スペイン国内の祭事について面白いものをピックアップしてお届けします。祭事は祭事でも、スペインらしさ全開のアツく楽しいお祭りをご紹介します。お楽しみに!

※1……第三の道は、別名銀河の道とも言われます。巡礼者たちは、夜の間は星降る丘(コンポステーラ)に続く銀河を道しるべとして進んでいたからだそうです。
※2……特に絶対の形が決まっているわけではないですが、白いホタテ貝に赤い十字架が描かれているものが一般的に携帯されているそうです。土産屋などでも手に入ります。カトリック教徒である印となっていますが、教徒であるという証明が必要なわけでもないので、観光客であっても巡礼は可能だそうです。

ライター:NANA

東京都八丈島出身。趣味は読書とお散歩で、旅行雑誌を読んで行った気分になるのが好き。スペインの好きなところは、一瞬一瞬を楽しむことに全力を注ぐスペイン人の生き方と、美味しい食べ物。スペインのアリカンテ大学(バレンシア州)への留学体験記を執筆中の、フラメンコを踊れるライター。

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