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第九回 日本三名狸伝説を巡る旅 香川編

第九回 日本三名狸伝説を巡る旅 香川編

2020/07/22

 今年も梅雨が訪れ、雨に濡れた木々は緑をいっそう深めたように感じられます。街をあるけば、色とりどりの傘の花。もしかしたら、そのうちのいくつかは人間に化けた狸たちのものかもしれません。
 さて、今回の舞台は四国・香川県。あの有名なアニメ映画にも登場した狸たちをご紹介いたします。

あじさい

四国は狸の楽園

 みなさんは狸にどのようなイメージをお持ちですか?あらゆるものに化けて人を驚かす、そんなイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。
 四国には数多くの狸伝説があり、全国では珍しく狸を祀った神社仏閣も見られます。その一方、四国には狐がいないと言われています。いたずらを繰り返した狐たちは弘法大師により四国から追放されてしまったのだとか。
 日向ぼっこが好きで、どこかおっとりした印象もある狸ですが、中には人間もびっくりするような武勇伝をもつ狸も数多くいたのです。今回はその中から、香川県の2匹にご登場いただきましょう。

弘法大使の道案内も務めた、屋島の「太三郎狸」

 香川県高松市の北東部に位置する屋島(やしま)。江戸時代に周囲の海が埋め立てられ、現在は陸続きとなっています。屋島の太三郎狸(たさぶろうたぬき)は、新潟県佐渡郡(現・佐渡市)の団三郎狸(だんざぶろうたぬき)と兵庫県淡路島の芝右衛門狸(しばえもんたぬき)とともに、日本三名狸に数えられています。平安時代初期、太三郎狸は老人に化け、道に迷った弘法大師を助けて屋島寺の守護を任されました。弘法大師との出会いで学問の大切さを感じた太三郎狸により、屋島には狸の大学がつくられ、多くの狸がここで修行を積んだとされています。
 平安時代末期には、平重盛に助けられたことに恩義を感じ、平家の味方となりますが、平家滅亡後は屋島寺に残り、住職が代替わりする際には源平合戦の模様を夢枕に再現したそうです。
 太三郎狸の伝説はまだまだ続きます。江戸時代にはかの有名な阿波狸合戦注1の仲裁をし、明治時代には日露戦争でも活躍。満州の地で、なんと小豆を兵隊に変えてロシア軍を追い返したのだとか注2。現在では「蓑山大明神(みのやまだいみょうじん)」として祀られており、一夫一婦の契りが堅かったことから、縁結びや家庭円満の神として親しまれています。

狛狸
狛犬ならぬ駒狸。夫婦仲良く社を守っています。
源平屋島合戦史跡
屋島の高台から望む源平屋島合戦史跡
太三郎狸の弟分、情け深き「浄願寺の禿さん」

 香川にはもう1匹有名な狸がいます。高松市内の浄願寺に祀られている「白禿大明神」です。地元では「禿(はげ)さん」と呼ばれ親しまれています。彼は太三郎狸の弟分であり、かつては屋島で暮らしていたのですが、源平合戦の際に物騒だからと住処を移したのだそう。
 さて、この禿さんはどうして禿げてしまったのでしょう?高松には、こんな逸話が残っています。

 ある時、近所に住む夫婦があまりにも貧乏で年越しができないと困っていました。それを見かねた禿さんは金の茶釜に化けます。夫婦はその茶釜を金持ちに売り、無事年越しをすることができました。一方、茶釜として売られた禿さんは、火にかけられ、ごしごしと磨かれる毎日。たまらず逃げ出したものの、頭には禿ができてしまいました。
 痛さでしくしく泣いているところ、和尚さんにお供えの鏡餅をもらって泣き止んだという話は、「今泣いたん だれかいの 浄願寺の禿狸 おかざり三つで だあまった」という童歌にもなり、今でも地域の方々に愛されています。

 今回は香川県の狸をご紹介しましたが、四国には他にもたくさんの名だたる狸がいます。四国に限らず、各地で開発が進み、狸の姿を見かけることも少なくなってきました。もしかすると、すでに山を下りて、人間に紛れて生活している狸もいるかもしれません。すれ違う後ろ姿にしっぽが見えていても、どうぞ驚かずに。

 次回は佐渡の団三郎狸をご紹介いたします。彼は人を化かすだけでなく、時には金貸しも行っていたとか。どうぞ楽しみにお待ちください。

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[脚注]
注1:江戸時代末期、阿波国(現:徳島県)で起こったとされている狸たちの合戦。四国の狸の総領である六右衛門(ろくえもん)と染物商「大和屋」の守り神である金長(きんちょう)たぬきがそれぞれの軍を率いて三日三晩に渡り戦ったとされています。
注2:「浄願寺の禿さん」にも同じような逸話があります。どこかの段階で混同され、2匹の逸話が融合したのではないかという説もあります。

[Reference]
四国新聞社 21世紀へ残したい香川「屋島と浄願寺のタヌキ(高松市) 2001年2月26日」 2020年7月22日
高松市中央図書館報 令和2年7月 2020年7月22日
小松島ナビ「金長たぬき」 2020年7月22日
怪異・妖怪伝承データベース 2020年7月22日

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