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Vol.4-2 ラス・オゲラス―後編―

Vol.4-2 ラス・オゲラス―後編―

2019/12/26


アリカンテ港のオゲラス(Hogueras)

 さて、引き続きアリカンテのオゲラスについて紹介していきます!

ニノットに秘められた社会的・文化的意味

 やはり、ファリャスやオゲラスを見て一番印象に残るのは、この摩訶不思議な紙人形たち、「ニノット(Ninot)」だと思います。実は、このニノットはそれぞれ社会的・文化的なテーマを象徴しているのです。例えば上に載せた、アリカンテの今年のメインニノットである女性像は女性の権利を主張し、すべての社会的な場で女性が活躍できることを祈って作られました。このように、他にも各ニノットに毎年テーマとなる題材があり、アリカンテでは役場前に飾られるニノットがオゲラス全体のメインテーマを担っています。
 私が実際見たものだと、動物愛護や他の種族との共存を主題にしたものや、海洋保全、国際平和など様々なテーマがありました。中にはあの米トランプ大統領のミニニノットまで……。少し皮肉を含めた内容のものが多く、社会的なメッセージを伝える媒体として展示されています。

 また、ニノットには親ニノットと子ニノットの二種類があり、必ずセットになっています。子ニノットの方は童話や映画の世界のような、ファンシーなものが多かったです。バレンシアのファリャスでは、毎年ニノットのコンクールが行われ、投票により一位に輝いたニノットは燃やされずに市庁舎にて保管されるそうです。
 ニノットは毎年、職人たちがこのお祭りのために、一年がかりで一から手作りしています。そしてこれらはすべて、使われなくなった材木とポリスチレンペーパーで出来ています。設置期間も含めると、2週間ほど野外展示されるので、いかに地中海地域の天気が安定して良いかが伺えますね。


子ニノット(ニノット・インファンティル:Ninot infantil)

点火式(Cremà)

 サン・フアン※1(San Juan)の日である最終日6月24日は、いよいよ全ニノットが炎を上げる、一番盛り上がる日です。24日の午前12時ちょうどに(なので正確には25日になります)役場前のメインニノットから順番に火が放たれます。これをバレンシア語でクレマ※2(Cremà)といいます。
 同時刻に、アリカンテのメイン観光スポットであるサンタバルバラ城(Castillo Santa Barbara)から、点火開始を伝える花火が上がります。これをパルメラ(Palmera:日本語でヤシの木)といい、その名の通りヤシの木のような形で広がる花火で、とても美しかったです。パルメラを見た後、アリカンティーノ達は各ニノットを巡り、燃え上がる火柱を鑑賞します。
 ところで、街中に特に何のガードもなく乱立している紙人形を燃やすなんて、危ないと思いますよね?もちろん、危ないです。したがって、この日は警察や消防士が総動員して消火活動と市民の安全確保に尽力します。アリカンテ消防士の友達曰く、「火災が多くはないアリカンテで、消防士が年で一番働く日」だそうです。

 そして彼ら消防士には、この日もう一つ大事な役割があります。それは期待しつつ群がるアリカンティーノ達に、消火ホースで水をかけることです。特に、若者たちにとってのオゲラスは、もはやこれがメインになっていると言っても過言ではないかもしれません。「アグア!アグア!(¡Agua!¡Agua!:水!水!)」という掛け声と共に、会場は大盛り上がりになります。なんと、自分達の方に水をかけてもらうために、消防士をわざと挑発する歌なんかもあるそうです。なんとなく、私は日本の餅まきの激しさを連想しました。そのくらい彼らはこの瞬間を毎年楽しみにしていて、深夜にもかかわらず、もちろん水着は必着の準備万端で臨みます。
 スペイン人って、やっぱり後先とかを考えるより、一瞬を全力で楽しく生きているのだなと思いました。私はそんな彼らを羨ましく、愛しく思います。


クレマを眺める人々と消火の様子

ミス・アリカンテと闘牛

 最後にご紹介するのは、オゲラスの開催期間に付随して行われるイベントについてです。その一つが、アリカンテで最も美しい淑女を決めるミスコンです。点火式の時に最初のニノットに火を灯すのは、ここでグランプリに輝いたミス・アリカンテ[スペイン語でベジェサ・デル・フエゴ※3(Belleza del Fuego)]です。また、このベジェサの他に6人の美女[ダマ(Dama)]が選ばれ、その年の一年間チームとしてアリカンテを代表し様々なイベントに参加します。
 ベジェサもダマも大人部門と子供部門の両方があり、それぞれ街の投票で選ばれます。彼女たちに限らず、アリカンテの女性たちはバレンシア民族衣装を身に纏い街を行進します。繊細な刺繍が施された、いかにも高価な衣装と特殊な髪形に魅せられました。男性用の衣装もあるのですが、女性の方が華やかに着飾っているように思えました。

 そしてもう一つは、近年では批判と廃止の声が多く上がっている闘牛です。スペインと聞くとフラメンコや闘牛のイメージが強く根付いているのではないかと思いますが、両方とも必ずしもスペイン全土で行われているものではありません。特に闘牛は、牛を興奮させてぎりぎりまで殺さず痛めつけ、たくさん躍らせて最後には殺してしまう内容ですので、廃止に賛成派の禁止地域が近年増えています。アリカンテにおいても、闘牛場はありますが、普段は稼働していません。ただ、このオゲラスの数日間だけは闘牛が行われます。


ベジェサとダマ達との記念撮影の様子

 いかがでしたでしょうか。アリカンテにとって特別なお祭り、オゲラスについて少しでも興味を持っていただければ嬉しいです。ちなみにこれで終わりと思いきや、クレマ後の1週間は毎晩深夜12時からアリカンテメインビーチのポスティゲットにて花火大会が行われます!アリカンティーノの体力は底なしです。この花火大会は、それはもうとても綺麗で派手で、人生で最も印象に残る花火でした。ぜひ一度はこの激動の一ヶ月をまるごと体験してみてほしいと思います。

 次回の記事では、スペインのイメージの一端を担うフラメンコについて、今までの私の経験と現地でのレッスン体験を踏まえて綴っていきたいと思います。ぜひご期待ください。

※1サン・フアン……英語では「ジョン(St. John)」のことです。アリカンテのサントにあたります。

※2クレマ……スペイン語ではケマ(Quema)といい、「燃える」という意味です。

※3ベジェサ・デル・フエゴ……こちらはスペイン語(カスティーリャ語)になります。意味は「炎の美女」。スペインには公用語として認可されている言語が4つあり、それぞれガリシア語、バスク語、カタルーニャ語、そしてカスティーリャ語(一般的なスペイン語)です。バレンシア語は公用語ではありませんが、こういった行事の特別用語や、町の標識などでは未だ使用されており、アリカンテの初・中等教育機関では必修だそうです。

ライター:NANA

東京都八丈島出身。趣味は読書とお散歩で、旅行雑誌を読んで行った気分になるのが好き。スペインの好きなところは、一瞬一瞬を楽しむことに全力を注ぐスペイン人の生き方と、美味しい食べ物。スペインのアリカンテ大学(バレンシア州)への留学体験記を執筆中の、フラメンコを踊れるライター。

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