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Vol.5 私とフラメンコとスペインと

Vol.5 私とフラメンコとスペインと

2020/01/31

フラメンコ発表会
通っていたフラメンコスクールの発表会

 今回の記事では、私がスペインという国に入り込むきっかけともなったフラメンコについて、スペインらしい熱い口調で綴っていきたいと思います。

フラメンコとは

 フラメンコを現在の形にしたのは、その昔(15世紀ごろ)東方からスペイン南部のアンダルシア地方に移民してきたロマ族という人たち。彼らはある期間迫害を受けており、深く暗い時代を経験していました。その当時の悲しみ、苦しみ、怒りといった負の感情と、まるでそれらに抗うような生きることの喜び、恋への情熱。そして、元々アラブ系移民の多いアンダルシア地方の独特な文化とスペイン音楽が融合したものがフラメンコです。最初はカンテ(Cante:歌)のみだったものにトケ(Toque:ギターの演奏)とバイレ(Baile:踊り)が加わりました。
 日本ではフラメンコ=踊りというイメージが先行しがちですが、本来のフラメンコはこれらの三つの要素が組み合わさった総合芸術です。また、クラシックバレエや社交ダンスなど他の芸術と違う点は、その場で即興で踊ることです。もちろん、ある程度の振り付けの型や技などは決まっています。しかし、その人の曲の感じ方によってその組み合わせは自由なので、一つとして同じフラメンコはありません。そして自由なのは踊りだけではなく、歌とギター演奏も同様です。つまり、その時の歌い手やギタリストの奏でるリズムに応じて自分の感性で踊る、それがフラメンコの醍醐味と言えるでしょう。
 辛い時代で複雑に絡み合う感情のはけ口として誕生したフラメンコだからこそ、その人の感性が100パーセント表れる現在のような形で発展していったのかもしれません。そのため、タブラオ※1(Tablao:フラメンコショーを鑑賞できるバル)などで実際にフラメンコを鑑賞すると、同じ曲でも出演者によって全く表現の仕方が異なります。

セビジャーナス
私が教わった先生とその旦那さんによるセビジャーナス※2

スペインとフラメンコ

 さて、スペインと聞くとフラメンコや闘牛を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。しかしながら、実際はフラメンコが盛んに踊られているのは南部のアンダルシア地方に限られ、北部やあまり観光客の訪れないない田舎の地域などでは見ることが少ないです。私の滞在していたアリカンテは東南の地域に位置しますが、スクールを見つけることはおろか、タブラオを見つけることすら難しかったです。
 フラメンコの本場というと、有名なのはセビージャとグラナダです。この両都市にはたくさんのタブラオがあり、道でフラメンコショーをしている場面などにも遭遇できる可能性があります。首都であるマドリードやバルセロナなどの大都市でもショーを見ることは可能ですが、観光客向けのある程度パターン化している内容を上演している場合が多いそうです。本物の情熱溢れるフラメンコを見てみたい場合は、南に行くことがおすすめです。


スペイン地域別マップ(引用元:「成功する留学」【https://www.studyabroad.co.jp/spain/】)

アリカンテのフラメンコスクール

 私は日本の大学でフラメンコサークルに所属しているので、スペインに行ったら一度は現地のスクールに通って本場の踊りを研究してみたいと思っていました。そして、入国から三ヶ月ほど経ち、アリカンテの生活に慣れ始めたころに、知り合いの紹介をいただいてエストゥディオ・デ・バイレ・フェファ・ゴメス(Estudio de baile Fefa Gómez)というスクールに通い始めました。
 前述の通り、アリカンテでフラメンコを見る機会は少ないのですが、こちらのスクールでは毎年7月に大きな発表会を開催していて、盛り上がりを見せています。講師のFefa Gómez先生はスペインの色んな地域で活躍されている方です。また以前に日本で半年間日本人にフラメンコを教えていた経験があるそうで、日本人ウェルカムだと言っていました(日本語は話せませんが……)。
 とはいえ、実際に通っている日本人は私の他に数名程度。私が受けたコースにはおらず、残りはすべて地域の住民の方でした。フラメンコ自体は日本の大学での経験もあり、基礎は既につかめていたのですが、まずは初級者コースから始めることにしました。知っていることであっても、違う言語で知らない人たちの中で練習することは、やはり困難だと感じたからです。
 自分より年上の生徒が多いうえに、スペイン語しか聞こえない環境に始めは馴染めず、どこに立って練習すればいいのかもわかりませんでした。しかし、始めてから数回通った後に発表会に出たいかと聞かれ、もう発表会は目前ではありましたが出演させてもらえることになりました。出演が決まってからはだんだんと他の生徒や先生と打ち解けるようになり、名前を呼んでもらえるようになりました。
 そうして迎えた発表会にはたくさんの地域の方や友達が見に来てくれて、日本の大学でのサークルの発表会とは違った雰囲気の、人生で初めての大舞台でした。花束を持って駆けつけてくれた友達もいて、とても感動しました。

 エストゥディオ・デ・バイレ・フェファ・ゴメスでは、フラメンコの他にもクラシックバレエやサルサ等のジャンルのダンス講師もおり、自分にあったダンスレッスンを受講できます。フラメンコクラスはレベルが初級から上級まで分かれており、初めての人でも経験者でも気兼ねなく挑戦できる雰囲気でした。個人スクールなので、「入会するにはどうしたら……」と尋ねると「いいよ!次から自由に来な!」と言われるほどオープンです。もしアリカンテに一定期間滞在することになった際に、「なにかスペインらしいことが経験してみたいな」と思うのであれば、おすすめしたいスクールです。
 そしてこの場を借りて、いきなり飛び込んでいった私を温かく迎え入れてくれた同クラスのみなさんと、最後にはお別れパーティーまで開いてくれ、「いつでもまた戻っておいで」と言ってくださったFefa先生にお礼申し上げます。

発表会後の集合写真(初心者クラス)
発表会後の集合写真(初心者クラス)

フェリア・デ・アブリル(Feria de abril)

 最後にご紹介するのは、先述にもあるフラメンコが盛んな街セビージャ(Sevilla)で毎年4月末から5月頭の間※3に開催される春祭り、フェリアについてです。このお祭りはVol.4で少々触れたスペイン三大祭のひとつで、街中がフラメンコ衣装を纏った人たちで溢れかえる人気のフィエスタです。
 上記期間内の日曜日にメインの門が点灯し、そこから1週間お祭り騒ぎが続きます。女性はたいてい豪華絢爛なフラメンコドレスを着て、男性もスーツやジャケットなどのフォーマルな格好をします。会場はたくさんのテント(Caseta:カセタ※4)が並んでいて、その中ではフラメンコの代表曲であるセビジャーナス(Sevillanas)のみが流されます。セビジャーナスはフラメンコで唯一ペアダンスとなっており、たくさんの人たちがカセタの中でも外の道でも楽しそうに踊っていました。私も数名の友達とフラメンコ衣装を着て訪れ、たくさんのカセタで踊って、食べて、飲んで……を繰り返しました。
 「踊りがわからないから楽しめなさそう」とか「ドレスや衣装を着なければいけないの?」などの不安があると思いますが、踊れなくても会場の雰囲気や踊っている人をみているだけでも面白いですし、服装もカジュアル過ぎなければ衣装でなくても浮くことはありません。入場料等もないので、この時期にセビージャを訪れるのであれば絶対に行ってほしいフィエスタです。ただ、大変混雑するので早い段階でホテルや航空券等をおさえておくことをおすすめします。


フェリア・デ・アブリル(2019)の様子(奥に映っているのが正門)

 フラメンコは近年日本人の間ではひそかなブームになっており、日本国内のスクールに通っている方やスペインへフラメンコ留学をする方などが多いようです。今回の記事がスペインを知る良いきっかけの一つとして興味をもってもらえたらとても嬉しく思います。次回は、きっとみなさんお待ちかねのアリカンテのレストラン・バル情報について書きたいと思います。お楽しみに!

※1タブラオ(Tablao)…フラメンコショーを鑑賞できるバルのこと。たいていは要予約で、ワンドリンク付きのチケットをオンライン購入します。中には食事を楽しめるタブラオもあり、価格帯が異なります。基本的には夜のみの営業です(観光客の多い場所では稀に昼間も営業している場合があります)。

※2セビジャーナス(Sevillanas)…名前の通りセビージャが発祥の曲で、フラメンコの曲のなかで最もポピュラーな曲です。リズムや振り付けも単調なので初心者向けであり、即興とはいえある程度パターンが決まっているので踊りやすいと思います。

※3…フェリア・デ・アブリルの時期は、アブリル(Abril)が4月を指すことからほとんどは4月の最終週あたりですが、開催が聖週間※5が終わった2週間後の日曜日と決まっているので5月頭ぐらいまで変動することがあります。

※4カセタ(Caseta)…アンダルシア方言で「屋台」の意味。カセタにはパブリックカセタという観光客など誰でも自由に出入りできるものと、身内のみで所有するプライベートカセタがあります。数の比は圧倒的にプライベートが多く、基本一般人は入ることができませんが、フラメンコ衣装等の正装をしていたりセビジャーナスを踊ることが出来たりすると、ふいに声をかけられて中に招待されることもあります。実際に私もいくつかに招待されました。

※5聖週間…スペイン語でセマナサンタ(Semana Santa)といい、日本ではイースターとして知られているキリスト教の祝祭期間です。

ライター:NANA

東京都八丈島出身。趣味は読書とお散歩で、旅行雑誌を読んで行った気分になるのが好き。スペインの好きなところは、一瞬一瞬を楽しむことに全力を注ぐスペイン人の生き方と、美味しい食べ物。スペインのアリカンテ大学(バレンシア州)への留学体験記を執筆中の、フラメンコを踊れるライター。

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